賃貸借

賃貸借

出典: 『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日ISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス 賃貸借とは、当事者の一方がある物の使用・収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことおよび引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって成立する契約をいいます(民法601条)。賃借人は、賃貸人の承諾を得れば、賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することができます(612条1項)。 賃貸借契約の債務不履行解除と転貸借(最判平9.2.25) 事件の概要 Xは、Aから本件建物を賃借し、Aの承諾を得て、これをYに転貸し、Yは、Xと業務委託契約を締結して本件建物でスイミングスクールを営業していた。その後、XがAに対する賃料の支払を怠るようになったため、Aは、1987年(昭和62)年1月31日、Xの債務不履行を理由にAX間の賃貸借契約を解除し、同年2月25日、XおよびYに対し、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。この訴訟において、Aの請求を認容する判決が確定したため、Aは、1991(平成3)年10月15日、確定判決に基づく強制執行により本件建物の明渡しを受けた。 判例ナビ 一方、Yは、1988(昭和63)年12月1日以降、Xに対して本件建物の転借料の支払をしませんでした。このため、Xは、Yとの業務委託契約を解除しましたが、Yは、その後も本件建物を使用し続けました。そこで、Xは、Yに対し、本件建物の転貸借契約に基づいて1988(昭和63)年12月1日から1991(平成3)年10月15日までの転借料1億3000万円の支払を求めるとともに、予備的に不当利得を原因として同額の支払を求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにXの請求を認容したため、Yが上告しました。 裁判所の判断 承諾のある転貸借においては、転借人が目的物の使用収益につき賃貸人に対抗し得る権原(転借権)を有することが重要であり、転借人が、自らの債務不履行により賃貸借契約を解除され、転借人が転貸借を賃貸人に対抗し得ない事態を招くことは、転貸人に対して目的物を使用収益させる債務の履行を怠るものにほかならない。そして、賃貸借契約が転借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合において、賃貸人が転借人に対して直接目的物の返還を請求したときは、転借人は賃貸人に対し、目的物の返還義務を負うとともに、遅くとも右返還請求を受けた時から返還義務を履行するまでの間の目的物の使用収益について、不法行為による損害賠償義務又は不当利得返還義務を免れないこととなる。他方、賃貸人が転借人に直接目的物の返還を請求するに至った以上、転貸人が賃貸人との間で再び賃貸借契約を締結するなどして、転借人が本件建物を使用収益し得る状態を回復することは、もはや期待し得ないものというほかはなく、転貸人の転借人に対する債務は、社会通念及び取引観念に照らして履行不能というべきである。したがって、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、転貸人の転借人に対する目的物を使用収益させる債務は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の承諾のある転貸借契約により消滅すると解するのが相当である。 これを本件についてみるに、XとYとの間の賃貸借契約が昭和62年1月31日、Xの債務不履行を理由とする解除により終了し、Aは同年2月25日、訴訟を提起してYに対して本件建物の明渡しを請求したというのであるから、XとYとの間の転貸借は、昭和63年12月1日の時点では、既にXの債務の履行不能により終了していたことが明らかであり、同日以降の転借料の支払を求めるXの主位的請求は、失当というべきである。右と異なる原審の判断には、賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合の転貸借の帰趨につき法律の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、Y敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第一審判決を取り消して、Xの主位的請求を棄却すべきである。また、前記原審の判断の下においては、不当利得を原因とするXの予備的請求も理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきである。 解説 AX間の賃貸借契約がXの債務不履行により解除されたことにより、XのYに対する本件建物を使用収益させる債務(601条)を履行することが不可能となります(使用収益させる義務)。XY間の転貸借は履行不能でまもなく終了します(612条の6)。本判決は、612条の6が平成29年民法改正で新設される前の判決ですが、612条の6は、賃借物の全部が使用・収益できなくなった場合、賃貸借は当然に終了するとした最判昭32.12.3を明文化した規定であり、本判決も最判昭32.12.3を前提としています)。そこで、XのYに対する「使用収益させる義務」がいつ履行不能となるのかが問題となりますが、本判決は、「賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に」履行不能になるとしました。 過去問 Aは自己所有の建物をBに賃貸し、Bは当該建物をCに転貸して、Cが当該建物を実際に使用している。BC間の転貸借契約がAの承諾を得ている場合において、AがBの債務不履行を理由にAB間の賃貸借契約を解除したときは、BC間の転貸借契約は、原則として、AがCに対して建物の返還を請求した時に、BのCに対する債務の履行不能により終了する。(公務員2021年) ○ 賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借については、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了します(最判平9.2.25)。

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