売買

売買

出典: 『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日ISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス 売買とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約束し、相手方がこれに対して代金を支払うことを約束することによってその効力を生ずる契約をいいます(民法555条)。売主は、売買の目的である財産権を買主に移転する義務を負い、買主に引き渡した目的物が契約の内容に適合しない場合には、契約不適合責任を負います。 売買後の規制と契約不適合(最判平22.6.1) 事件の概要 公団の取得等を行うX会社は、1991(平成3)年3月15日、ふっ素樹脂製品の製造を業とするYから、その所有する土地(本件土地)を買い受けた(本件売買契約)。本件土地の土壌には、本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが、その当時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象外であり、取引観念上も、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、XもYもそのような認識を有していなかった。しかし、2001(平成13)年3月、土壌の汚染に係る環境基準にふっ素が追加された。2003(平成15)年2月には土壌汚染対策法及び同法施行令が施行され、ふっ素及びその化合物は「特定有害物質」と定められ、土壌にふっ素を加えた場合に適用する量に関する基準値(溶出量基準値)および土壌に含まれるふっ素に関する量に関する基準値(含有量基準値)が定められた。そして、土壌汚染状況の進行に伴い、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例の制定が行われ、ふっ素及びその化合物に係る汚染処理基準値として上記と同一の溶出量基準値及び含有量基準値が定められた。2005(平成17)年11月、本件土地につき、上記条例に基づく土壌の汚染状況の調査が行われたところ、その土壌に上記の溶出量基準値および含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。 *ふっ化水素酸の俗称。ふっ素化合物の原料等に用いられる。 **鉛、砒素、トリクロロエチレンなどといったもので、当該物質(放射性物質を除く)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるもの。 判例ナビ Xは、Yに対し、本件土地のふっ素による土壌汚染が民法570条(平成29年改正前)の隠れた瑕疵に当たるとして損害賠償を求める訴えを提起しました。原審がXの請求を認容したため、Yが上告しました。 裁判所の判断 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記準拠法によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、Xの担当者もそのような認識を有していなかったものであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれのある有害な物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地の備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことが、本件売買契約締結当時当然に認識されていたか否かによらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時、取引観念上、土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それがないこと及び土壌の安全性が確保されていることが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵に当たらないというべきである。 平成29年改正前の民法570条は、売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合に瑕疵担保責任を定めており、本件では、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことが瑕疵に当たるかが問題となりました。本判決は、契約当事者がどのような品質や性能を予定していたかという主観的な観点から判断し、契約締結当時、本件土地の土壌にふっ素が含まれていないことや人の健康に被害を及ぼすおそれのある一切の物質が含まれていないことが特に予定されていたわけではないとして、ふっ素が含まれていたことは「瑕疵」に当たらないとしました。なお、平成29年改正で瑕疵担保責任が廃止され現行法の下では、契約不適合(562条以下)の問題となります。 この分野の重要判例 ◆法律上の制限と契約不適合(最判昭41.4.14) Xは本件土地を自己の居住する将来の宅地の敷地として使用する目的で、そのことを表示してYから買い受けたのであるが、本件土地の約8割が東京都都市計画街路計画第54号の地域内に存するというのである。かかる事実関係のもとにおいては、本件土地が東京都都市計画事業として施行される道路敷設に該当し、同地上に建物を建築しても、将来その実行により建物の全部または一部を撤去しなければならない事情があるため、契約の目的を達することができないのであるから、本件土地の瑕疵があるものとした原判断は正当であり、所論違法は存しない。また、都市計画事業の一環として都市計画街路の路線が決定されたとしても、それが告示の形式で公表されるほか、右告示が成立して10年以内に行われたとして効力が消滅し、本件土地の大部分が都市計画の道路敷地に含まれるか否かという法律上の制限があることは知らなかったとして、法令上の制限があることを知らなかったことはYの過失であり、本件土地の隠れた瑕疵に当たる瑕疵があるものとした原判決は正当である。 解説 本件は、Xが居住するための建物を建てる目的でYから購入した土地の大部分が都市計画道路の予定地であり、建物を建ててもいずれ撤去しなければならないことが判明したという事案です。宅地に対する法律上の制限が平成29年改正前の民法570条の「瑕疵」に当たるかが問題となりましたが、判決は、「瑕疵」に当たるとしました。平成29年改正により、目的物が権利に関する契約不適合(565条)、種類または品質に関する契約不適合(562条)または目的物が第三者の権利を侵害する場合(562条)は権利の瑕疵に当たるとし、目的物に関する契約不適合(562条)または権利の契約不適合(565条)の問題とみることができます。

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