出典: 『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日ISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
多数当事者の債権関係とは、債権者と債務者の一方または双方が複数である場合の債権関係をいいます。民法は、多数当事者の債権関係として、分割債権(427条)、分割債務(427条)、不可分債権(428条)、不可分債務(430条)、連帯債権(432条)、連帯債務(436条)、保証債務(446条)という7つの類型を規定しています。多数当事者の債権関係において生じる問題には、対外的効力(複数当事者とその相手方との関係で生じる問題で、誰が、どのように請求し、または履行するのかという問題)、影響関係(複数当事者の1人について生じた事由が他の当事者にどのような影響を及ぼすのかという問題)、内部関係(債権者の1人が弁済を受けた場合に他の債権者にどのように分配するか、また、債務者の1人が弁済した場合に他の債務者にどのように分担させるかという問題)があります。
連帯債務者間の求償と通知 (最判昭57.12.17)
■事件の概要
XとYは、Aに対し5000万円の連帯債務(本件連帯債務)を負担していた(XとYの負担部分は平等)。その後、Xは、本件連帯債務に代えて自己の所有する土地をAに譲渡し、移転登記も経由した(本件代物弁済)が、本件代物弁済につき、Yに対し事後の通知(民法443条2項)をしなかった。そのため、Yは、本件代物弁済の事実を知らず、Aに対し1000万円(Yによると200万円の弁済と800万円の弁済の合計額)を弁済したが、Xに対し事前の通知(同条1項)をしなかった。
判例ナビ
Xは、Yに対し、求償金2500万円を支払うよう催告しましたが、Yがこれに応じなかったため、Yに対し、求償金の支払いを求める訴えを提起しました。第1審は、Xの請求を棄却しましたが、控訴審は、YのAに対する弁済を無効とし、Yによる弁済については、Yの弁済と同視できるとした上で、弁済当時、Xの連絡先が不明であったため、Zは事前の通知を怠ったとはいえないとして、有効とした。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
連帯債務者の1人が弁済その他免責の行為をするに先立ち、他の連帯債務者に通知することを怠った場合には、既に弁済その他免責の行為を得ていた他の連帯債務者に対し、民法443条2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできないものと解するのが相当であり、けだし、同項の規定は、同条1項の規定を前提とするものであって、同条1項の事前の通知につき過失のある連帯債務者までを保護する趣旨ではないと解すべきであるからである…。
解説
本件は、第1の弁済をしたXが事後の通知を怠るとともに、第2の弁済をしたYも事前の通知を怠ったという事案であり、443条2項の適用により第2の弁済を有効とすることができるかが問題となりました。本判決は、これを否定しました。そのため、Yは、Xに対して求償することはできず、連帯債務の一部について二重に弁済を受けたAに対し不当利得返還請求をすることになります。
過去問
最高裁判所の判例では、連帯債務者の一人である乙が弁済その他の免責の行為をするに先立ち、他の連帯債務者に通知することを怠った場合、すでに弁済しその他の免責の行為を得ていた他の連帯債務者甲が乙に事後の通知をせずにいた場合でも、乙の免責行為を有効であるとみなすことはできないとした。 (公務員2016年)
○ 1. 連帯債務者の1人が弁済その他の免責の行為をするに先立ち、他の連帯債務者に事前の通知(民法443条1項)を怠った場合は、既に弁済しその他共同の免責を得ていた他の連帯債務者に対し、民法443条2項の規定により自己の免責行為を有効であるとみなすことはできません(最判昭57.12.17)。
解除による原状回復義務と保証人の責任 (最大判昭40.6.30)
■事件の概要
Xは、Aとの間で、Aの住宅内にある家具(本件建具)を15万円で買い受ける売買契約を締結し、契約当日に売買代金全額を支払った。また、Xは、Yとの間で、Aの売買契約上の債務についてYを保証人とする契約(本件保証契約)を締結した。Aが期日を過ぎても本件建具を引き渡さなかったため、Xは、Aとの売買契約を解除した。Aに対し、売買契約の解除による原状回復義務の履行として、支払った売買代金15万円の返還を求めるとともに、Yに対して、保証人としての責任を追及し、同額の返還を求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、Aに対する請求を認容(確定)しましたが、Yに対する請求を棄却しました。そこで、Yに対する請求について、Xが控訴しましたが、控訴審も請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
売買契約の解除のように遡及効を生ずる場合には、その解除による原状回復義務は本来の債務が消滅して生ずる個別独立の債務であって、本来の債務に対する当事者の意思は、特約のないかぎり、右原状回復義務にまで及ぶものではないと解するのが相当であり、これが履行の利益に関する第1審判決の示した見解である。
解説
従来の判例は、解除によって生じる原状回復義務(民法545条1項)は、売買契約に基づく従来の主たる債務とは別個独立の義務であり、保証人は、特別の約束がない限り、原状回復義務について責任を負わないとしていました。しかし、これでは、非代替物であることの多い特定物の売主の保証について保証契約を締結する意味が失われてしまいます。そこで、本判決は、従来の判例を変更し、保証人が売主の原状回復義務についても責任を負うことを認めました。
過去問
最高裁判所の判例では、特定物の売買契約における売主のための保証人は、債務不履行による契約の解除によって生じた売主の損害賠償義務についてはもちろん、保証契約により解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものとした。 (公務員2020年)
○ 1. 保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特段の反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証責任を負います(最大判昭40.6.30)。