債務不履行

債務不履行

出典: 『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日ISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス 債務不履行とは、広義では、債務の本旨に従った履行がされていない状態をいい、狭義では、債務の本旨に従った履行がされていない状態について債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)がある場合をいいます。債務不履行の態様には、履行が可能であるにもかかわらずしない場合(履行遅滞)、債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能な場合(履行不能)、一応履行がされたが、それが内容上不完全である場合(不完全履行)があります。 損害賠償額の算定時期 (最判昭47.4.20) ■事件の概要 Xは、Yから賃借していた居住用の建物(本件建物)とその敷地(本件土地)を買い受けた。この契約では、(1) 代金完済と同時に登記を移転すること、(2) 代金を完済するまで従前の賃貸借契約を継続することとされた。しかし、Xは、支払期日までに代金を支払えなかったため、Yと交渉して支払期日を延期してもらうとともに、以後、賃料を支払わない代わりにYに本件土地建物の固定資産税をXが負担することで合意した。その後、Xは、代金を完済したが、資料等の紛失を理由にYに登記の移転に応じてもらえなかった。しかし、Yと応諾して登記に応じなかったため、Xは、Yの催告にもかかわらず移転登記手続に協力せず、Yに固定資産税を支払わせ続けた。そこで、Yは、Xの債務不履行等を理由に契約を解除し、本件建物をAに売却し、登記を移転した。 判例ナビ Xは、Yに対し、移転登記手続の履行不能を理由に損害賠償を請求する訴えを提起しました。 第1審は、Xの請求を認容しましたが、Xには転売して利益を得る目的がなかったとして、Xの損害は、Yの所有権移転登記義務が履行不能となった時、すなわち、A名義の所有権移転登記がなされた時の本件土地の価格である、としました。Xは控訴しましたが、控訴を棄却されたため、損害額は、時価である控訴審(事実審)の口頭弁論終結時の価格であるとして、控訴審(事実審)の口頭弁論終結時の価格であると主張して上告しました。 ■裁判所の判断 債務の履行が不能となった場合における損害賠償請求権の額は、履行に代わる賠償(塡補賠償)であるから、履行の請求をしうる状態に至った時における目的物の価額を基準として算定すべきものではなく、債務の履行不能の時における目的物の価額を基準として算定すべきものでもないし、また、右の賠償請求権者がその請求をする時における目的物の価額を基準として算定すべきものでもない。けだし、債務の履行不能の場合における損害賠償請求権の額は、履行に代わる賠償(塡補賠償)であるから、履行の請求をしうる状態に至った時における目的物の価額を基準として算定すべきものではなく、債務の履行不能の時における目的物の価額を基準として算定すべきものでもないし、また、右の賠償請求権者がその請求をする時における目的物の価額を基準として算定すべきものでもない。 解説 不動産の二重売買において、第2買主が登記を得ると、売主の第1買主に対する移転登記義務は履行不能となり、第1買主は売主に対し損害賠償を請求することができます。本件では、その時点を基準として損害賠償額を算定すべきかが問題となり、本判決は、目的不動産の価格が上がり続けているという状況下で、転売目的がなく、自己使用目的であったも、上がり続けている現在の価格を基準に損害額を算定することを認めました。 過去問 最高裁判所の判例では、売買の目的物である不動産の価格が、売主の所有権移転義務の履行不能後に騰貴しているという特別の事情があり、かつ、履行不能の時に賠償請求権を請求しているとしても、買主がその特別の事情の存在を知っていたかまたはこれを知りうべかりし場合を除き、履行不能時の価格を基準として算定した損害賠償の請求をすべきとした。 (公務員2015年) × 1. 売主の所有権移転義務が履行不能となった後、目的物である不動産の価格が騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、履行不能の際に、目的物である不動産の騰貴を知っていたかまたはこれを知りうべかりし場合には、買主は、売主に対し、不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害賠の請求をすることができます(最判昭47.4.20)。

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