譲渡担保

譲渡担保

出典: 『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日ISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス 譲渡担保は、目的物の所有権を債権者に移転し、債務が弁済されれば債務者に復帰させるという権利移転形式の担保物権です。民法に規定がありませんが、取引界の要請を背景に、判例の積み重ねによって認められた担保物権です。譲渡担保によると、在庫商品のような集合動産や取引上発生・消滅する集合債権のように、民法が規定する他の方法では担保権の設定が難しいものを担保の目的物とすることができます。 譲渡担保権者の清算義務 (最判昭46.3.25) ■事件の概要 1960(昭和35)年2月、XとYは、(1)XがY所有の本件土地を買い受け、その代金は、XのYに対する債権と相殺して決済する、(2)本件土地は、Yが同年12月末までに代金をXに支払えばYに返還されるが、支払わないときは、確定的にXの所有となり、Yは地上にある建物を収去して本件土地をXに引き渡さなければならない、との合意をした。そして、この合意に基づいて、YからXへの売買を原因とする所有権移転登記がなされた。 判例ナビ YがXに代金を支払わないまま1960(昭和35)年12月末日を過ぎたので、Xは、Yに対して、建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を認容したため、Yが上告しました。 ■裁判所の判断 集合債権を目的とするいわゆる譲渡担保の目的とされた債権が、弁済のために第三債務者から取り立てられた場合において、右取立金が被担保債権の額を超えるときは、譲渡担保権者は、右超過額を譲渡担保設定者に返還すべき義務を負うものと解するのが相当である。 そして、この理は、被担保債権の弁済に窮した場合において、右超過額を譲渡担保権設定者に返還すべき清算義務を負うものと解するのが相当である。 解説 弁済期が到来しても被担保債権が弁済されない場合、債権者は、目的物を換価処分し、それによって得た金銭を被担保債権の弁済に充当することができます。換価処分の方法には、譲渡担保権者が目的物をその評価額を清算金として債務者に返還する旨の清算(帰属清算型)と目的物を売却してその代金から債権の満足を得る処分清算型があります。本判決は、帰属清算型の場合について、清算義務を肯定するとともに、清算義務の履行(清算金の支払)と目的物の引渡しが引き換えになされるべきであることを明らかにしました。 ◆この分野の重要判例 不動産譲渡担保の実行 (最判平6.2.22) 不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、右譲渡担保契約がいわゆる帰属清算型であると処分清算型であるとを問わず、目的物を処分する権限を取得するから、債務者がこの権限に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは、第三者は、請求人は目的物の所有権を確定的に取得し、債権者は、清算金がある場合に債務者に対してその清算金を支払うべき義務を負うにとどまり、残債務を弁済して目的物を譲り受けることはできなくなるものと解するのが相当である…。この理は、譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なることはない。けだし、そのような場合に、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、清算金がある場合に債務者に対してその清算金を支払うべき義務を負うにとどまり、残債務を弁済して目的物を譲り受けることはできなくなるものと解するのが相当である。 解説 帰属清算型、処分清算型のいずれの譲渡担保においても、目的物の価額が被担保債権額を上回るときは、担保権者は、その差額を設定者に返還する義務(清算義務)を負います(最判昭46.3.25)。また、債務者は、弁済期到来後も一定期間は弁済して目的物を受け戻すことができ、これを受戻権といいます。本判決は、譲渡担保権者が受戻権の行使を阻止するために目的物を第三者に譲渡した場合には、帰属清算型、処分清算型のいずれであっても、また、譲受人が背信的悪意者であっても、受戻権は消滅するとの厳しい判断を下しました。 過去問 譲渡担保権者には、譲渡担保を実行する際に目的物の価額が被担保債権額を上回ればその差額を譲渡担保権設定者に支払う清算義務があるが、譲渡担保権者による精算金の支払と譲渡担保権設定者による目的物の引渡しは、特段の事情のある場合を除き、同時履行の関係に立つとするのが判例である。 (公務員2022年) 不動産に処分清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、その後譲渡担保権者が目的不動産を第三者に譲渡した場合において、その第三者が背信的悪意者であったときは、その第三者は、目的不動産の所有権を取得しない。 (司法書士2020年) ○ 1. 譲渡担保権者による精算金の支払と譲渡担保権設定者による目的物の引渡しとは、特段の事情のある場合を除き、同時履行の関係に立ちます(最判昭46.3.25)。 × 2. 不動産に処分清算型の譲渡担保権を設定した債務者が弁済期に債務の弁済をせず、その後譲渡担保権者が目的不動産を第三者に譲渡した場合、その第三者が背信的悪意者であっても、債務者は、受戻権を行使することができません(最判平6.2.22)。したがって、第三者は、目的不動産の所有権を取得します。

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