最初からあなたは浮気される運命だった

最初からあなたは浮気される運命だった

出典: 事件はラブホで起きている
ここまで「浮気とは本能である」という側面から、不倫という現象の不可避性について語ってきた。でも、もうひとつ大事な問いがある。 ――もし、最初からあなたが浮気される運命だったとしたら? そして、浮気されたことがもはや揺るぎない事実となったとき、次に問うべきは、「では、その事実をどう意味づけるか?」――。 それに考えるヒントになる寓話がある。「サマッラの約束」の話だ。 昔、バグダッドの市場に商人がいた。 ある日、彼は人混みのなかで、驚いた顔でこちらを見つめてくる男に気づく。 その男は「死神」だった。 死神と目が合った商人は青ざめ、慌てて市場から逃げ出した。そして向かったのは、遠く離れたサマッラの街。そこなら死神に見つからないだろうと思ったからだ。 でもやっぱりと思いサマッラに着いたその夜、商人の前に再びあの死神が現れた。 「……わかったよ」と、商人は言った。 「降参だ、さあ殺せ……でも最後に教えてくれ。バグダッドの市場で私を見たときに、なんで驚いた顔をしていたんだ?」 「それは……」と死神が答えた。 「お前とは今夜、会う約束だったから、――ここ、サマッラで」 これは、逃れられない運命と、乾いたユーモアに描いた話だ。 浮気される運命。なんて言葉は、あまりに不快で認めたくもない。でも、もしそうだったとしても、僕たちはその意味を選び直す自由がある。 僕が公私ともにずっと大切にしている考え方がある。それは、「どんな辛い出来事も、自分の考え方ひとつで物語として紡ぐことができる」ということだ。 人生というのは一本の糸で織られたタペストリーのようなもの。過去の一部分の糸を切り取ってしまったら、全体がバラバラにほどけてしまう。さまざまな過去を含めて、今の自分が織り上げられている。不倫された理由を考えて、その過去は変わらない。でもその出来事の意味を探し、再構築しようとする行為には、とても大きな価値がある。 意味とは、あとから与えるものだ。出来事が起きたその瞬間は、ただの傷だったものが、何年か経ってから「今思えば、あのときが転機だったなぁ……」と思えるようになる。月並みな言葉でいえば「伏線回収」ってやつかね。映画や小説だと伏線ってめちゃくちゃキレイに回収されるけど、現実世界ではそうはいかない。最後まで回収されないまま終わることのほうが、むしろ多い。 だから能動的に回収作業をしていく必要がある。例えば、不倫された当初は、人生が完全に壊れた、終わったと感じるかもしれない。でも、それを糧に何かを築いたり、新しい関係を構築したり、新しい価値観にたどり着いたりする依頼者さんを、僕は数多く見てきた。 調査が終わったあとに、「不倫されて本当に辛かった。だけど、そのおかげで小沢さんとこうして出会うことができたわけだし、そういった意味ではいい経験だったと思っています」と言ってくれた依頼者さんがいた。 もちろんその言葉というのは、半分は僕に気を遣って言ってくれたものだろうけど、もう半分はおそらく自分自身に向けた呪文であり、これからの人生に対する静かな覚悟のようなものにも思えた。 「私は、あの裏切りを自分の糧に変えて、もっと幸せになってやる」 そう言っているようだった。いいぞ、いいぞ。 一方で、怒りを原動力にしている依頼者さんもいた。それも大いに結構。怒りは正しく用いれば、人を立ち上がらせるエネルギーになる。ガソリン代わりに怒りを使った依頼者さんも、実際にいた。きれいごとだけじゃ進めない現実も、僕は知っている。「復讐は何も生まない」なんて言葉を聞くが、あんなのはアニメに出て来る正義のヒーローしか言えないセリフだよ。復讐したきゃすればいい。依頼者の復讐に合法的に加担することができる仕事が探偵だからね。 そういえば、年末に会った優等生タイプの友人がカッコつけて、こんなことを言っていた。 「人生ってどれだけ許せるかだと思うんだよね」 たしかに理想はそうだよな……でも、許し難いことを許すことも強さだけど、「いつまで経ってもどうしても許せないでいる自分のことを許してあげる」ことも、また強さだと僕は思う。 「なにクソ」と、思うに強引に道をこじ開けていくその姿勢。そうした日々こそが、いつか振り返った時に、「ああ、結果的には必要な日々だったんだな」って気づかされたりもする。 どっちにしろ、人は自分が今、「何かしらの終わり」に直面している事実に気づくのはなかなか難しい。不倫という出来事は、ひとつの道の終わりを意味する。不倫された瞬間にだけを切り取れば、それは不幸の象徴かもしれない。でも、いつかその経験が物語として紡げたとき、それは必要な通過点に変わるし、分岐点だったことを知るはず。 百戦錬磨の探偵である僕でさえ、あなたの人生における伏線回収の依頼は受けられない。なぜなら、それはあなたにしかできない仕事だから。 あなたが紡ぎはじめた物語を面白くできるかどうかは、すべてあなたにかかっている。

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