地獄のクリスマスを経て迎えたお正月

地獄のクリスマスを経て迎えたお正月

出典: 事件はラブホで起きている
配偶者と不倫相手との関係は、以前と何ら変わらず続いていた。 『Happy New Year!!!』 年が明ける瞬間、LINEでそんな明るいやり取りをしているふたりを、私は死んだ目で眺めていた。そんなある日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。 「……もしもし?」 聞き慣れない声の主は、不倫相手の母親だった。 「不倫相手母「はじめまして。〇〇の母です。ご主人様から奥様のご連絡先を伺いました」 数日前、配偶者から「不倫相手の母が君と話したがっているらしい」とは聞いていたものの、まさか本当にっかてくるとは思っていなかった。 「突然のお電話、申し訳ありません。この度は娘がご迷惑をおかけしてしまい、心よりお詫び申し上げます」 定型的な謝罪のあと、母親は本題を切り出してきた。 「今回、ご主人様と娘が仲良くさせていただいていたのは事実です。ただ、本人から話を聞くかぎり、身体の関係はなかったと申しておりまして」 はぁ? 「娘ね、ちょっと人より恋愛を知るのが遅かったんです。ずっと〝ウブ〟なんです。だから、きっといけないと思うんですね、ご主人と一線を越えるなんて」 続けて母親は、自身の知り合いだという弁護士の意見を引き合いに出し、肉体関係がなければ慰謝料の支払い義務はないと言い出した。 「奥様も、弁護士さんを立てて裁判するとなると余計もつくんじゃないかと思って……だからここはお互様のためにも――」 その瞬間、私のなかで、何かがプツンと切れた。 「え? 私のために穏便に済ませようってことですか? そもそも穏便に済ませたかったからこそ、示談交渉のためにわざわざ娘さんに会いに行ったんです。でも、それを無碍にしたのは娘さんのほうですよね?」 私の怒りは止まらなかった。これまでに集めた数々の証拠、私の父が亡くなった直後にも不倫が続いていた事実、そして今も配偶者と彼女の関係は終わっていないことまで、すべて話した。 母親は驚きのあまり言葉を失っていた。自分の娘がそんな状況で不倫をしていたことも、探偵の証拠があることも、ましてや葬儀後にもかかわらず関係が終わっていなかったことも、本当に何も知らなかったらしい。 「本当に申し訳ありません……私と同じ女性として、正直娘のやったことは許せません」 そう言った母親はこれまでの「娘を守る姿勢」から一転し、「娘に責任を取らせる」方向へと切り替わっていた。 「ご主人には、娘の方の慰謝料を支払うよう私からもお願いします。でも、やはり娘にも責任はあります。半分をご主人、半分を私が娘から回収して、一括で奥様にお支払いできないかと考えています。どうか、裁判だけは避けていただけませんか……」 私は冷静を装いながら、こう返した。 「すぐに〝はい〟とはお答えできません。少し考える時間をください」          電話を終えたあと、私はすぐに弁護士さんに連絡し、状況を説明した。先生の助言のもと、本当にそれが可能なら、3日後に一度ご連絡ください。その際で振込予定日を教えてくださいと、当人それぞれが可能な、口座情報を添えて相手の出方を待つことにした。 *** 約束の3日後、待っても連絡が来なかったため、こちらから催促のメールを送ると、すぐに電話がかかってきた。 「すみません、ご連絡遅くなって……それよりも奥様、あなたご主人、本当に何なんですか⁉ 半分でいいから払ってほしいと伝えたら、〝無理です。払えません〟の一点張りで……あれだけ娘を守ると約束したのに……!」 もう、笑うしかなかった。 なので、大変申し訳ないのですが、現時点で用意できている娘分の半額だけをお支払いさせていただけませんか? 数日後、提示金額の半額が無事振り込まれていたことを確認し、不倫相手の母に連絡した。 不倫相手母「これから娘には、自分のしたことの重大さを理解させます。この先も私は、娘を許すつもりはありません」 そう言う母親に、私はふとこう返していた。ただ、自然に出た気持ちだった。 「娘さんにはきちんと償ってほしいとは思っています。でも、親子の仲が悪くなってほしいとは思っていません。私言うのもなんですが……せっかくお互いが生きているなら親子で笑って過ごしてほしいって思ってます」 電話の最後、母親はこう言ってくれた。 「この状況でも、娘に対し感情的にならず接していただいてありがとうございました。奥様も、どうかお身体に気をつけて。お仕事もがんばってください」 その後、配偶者との別居は無事に完了し、不倫相手からの慰謝料(半分)もきちんと振り込まれた。家族や友人、そして小沢さんと弁護士さんにこの報告を終えたとき、私はようやく、ひとつの節目を迎えた実感が湧いていた。 ひとりになった家で、私は夫の字に寝転がり、深く、深く息をついて、自分にこう声をかけた。「自分、お疲れ‼」 *** わが家の不動産がようやく段落。 わが家の不倫が発覚したのは2023年の夏。その年の秋、私は最愛の父と大切なペットを立て続けに失いました。 彼らとの永遠のお別れに泣き崩れているすぐ隣で、不倫相手と♡を送り合う配偶者に辟易していたことを今でも覚えています。そんな経験をしたから伝えたいことがあります。 あなたが今どんな状況に置かれていたとしても、〝目の前にある時間〟に目を向けて、周りの愛すべき存在との時間も大切にしてほしいと思うのです。 これを読んでくださっている方のなかには、あの日の私のように不倫が原因で毎日消えてしまいたいと泣いている方もいるかもしれません。「お前らが不倫さえしなければ――」と、すべてを配偶者と不倫相手にぶつけたくなる気持ちに押しつぶされそうになっているのかもしれません。でも残念ながら、どれだけ彼らを呪っても時間は戻らないし、不倫がなかったことになるわけでもありません。しかもそうしているうちに、大切な存在と過ごせる時間が、ある日突然、終わってしまうかもしれないのです。 だから、ほんの少しだけでもいいです。沈んでいるその場所から少し顔を上げて、あなたの周りにいる、愛すべき人や生き物へ目を向けてみてください。見当たらなければ大好きな推しでもいいし、本や音楽でもいい。もし、愛すべき存在との時間が明日で終わってしまうとわかっていたら、配偶者や不倫相手のことだけに囚われている時間が、きっともったいないと感じるはずです。 私はそんな簡単なことにも気づけないまま、不倫の証拠もつかめず、泣きながら立ち止まっているだけの日々の中で、大切な存在をふたつも失ってしまいました。 時間は戻らない。でもどうか、メソメソと泣く私に小沢さんは、こう言って約束してくれました。 「証拠、撮りますから。絶対、お父様のためにも」 おそらく、不倫が発覚してからはじめて前を向けた瞬間だったと思います。私以外の誰かが〝父のことを想って、闘おうとしてくれている〟ことが、私にとってはまちがいなく心の支えになっていたし、あの日の小沢さんとの会話はこの先ずっと忘れないと思います。 あの不倫騒動から2年が経ちました。これを書いている現在も、穏やかな日とそうでない日のあの不倫騒動から2年が経ちました。これを書いている現在も、穏やかな日とそうでない日の自分のメンタルの温度差に風邪を引きそうになる毎日ですが、それでも私はどうにか元気です。 それは、私がポジティブだからでも〝強い人間だから〟でもありません。近くで支えてくれる家族や友人、調査が終わってからもいろいろと協力してくれる小沢さんや弁護士さんのおかげでもあり、自分に好きなものがあるおかげだと思っています。私が不倫相手に突撃することを友人に話したとき、復讐しか考えられなかった私に対して友人は、こう言ってくれました。 「復讐が成功することよりも、君が笑って過ごせる日常が1日も早く戻ることのほうが、いちばん大事だよ」 そこから私は、敵である彼らに背を向けて、ただ好きなものを楽しむ方向へと舵を切りました。当時、不倫について調べていたときによく見かけた、「不倫されたからって、あなたの価値は変わらない」「自分を責めないで」といった、〝綺麗ごと〟のような言葉からはむしろ心が遠ざかっていく気がしたし、「ポジティブになろう!」という元気を出せる系の言葉にも抵抗がありました。そんな私にとって、自分が好きな漫画や音楽、可愛い生き物をただただ「好きだ!」と思える気持ちで自分をいっぱいすることは、私が笑顔を取り戻すために最も しっくりくる方法でした。もちろん、これが誰にでも当てはまるとは思っていません。復讐によって気持ちが救われる人もいるし、相手に責任を取らせることはとても大事なことです。 ただ、どんな心持ちであろうとも、共通して言えるのは、 「あなたを救えるのは、やっぱりあなただけ」 だと思うのです。この世界は理不尽で残酷なことばかりです。でも、そんな世界であっても生きていれば、「あのとき、死ななくてよかったな」と思える美しい出来事が起きることも、私は知りました。 ここまで、ひとりの依頼者の長い話に付き合ってくださって、本当にありがとうございました。 どうかどうか、これを読んでくださっている方の世界にも、これから先たくさんの美しい出来事が起きますように――。 2025年5月 イナミ

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