出典: 事件はラブホで起きている
――義父と義母と配偶者。こちらは母と私、そして父の遺影を前に並び、重苦しい〝地獄のクリスマス〟が始まった。
義父「えーと、今日の議題は何ですかね? 私、書記しますよ」
……書記? まるで事務的な打ち合わせでもしているかのような義父の話しぶりに、冒頭からうんざりした。
母「議題って……会社の会議じゃないんだから。ま、いいです。ご両親も経緯をご存知かと思いますので、簡潔にお話しします。ふたりの離婚は決定しているので、問題は別居です。慰謝料の請求について弁護士を通して行ないますので、まずはこの子が安心して暮らせる環境を整えさせてください」
夫「え、慰謝料って何のことですか?」
突然、配偶者が〝当然の質問です〟と言いたげな顔で質問を投げかけてきた。
母「慰謝料は慰謝料でしょ。不倫したんだから、あなたも彼女にも払ってもらわないと」
夫「そっちがその態度なら、こっちも黙っていられません。彼女に請求するなら、全額僕が払います。彼女には1円も支払わせません。でも、もし本当に請求するなら……僕たち、完全に敵同士ですよ?」
いやいや、もうとっくに敵同士だろう。
夫「そもそも、俺だけが悪いんですか? なんでふたりの問題なのに、俺だけが払うことになるんですか?」
母「あなたが不倫したからでしょうが」
母と配偶者が静かな言い合いをするなか、今までずっと黙っていた義母が突然、「男と女って根本的に考え方違うもんね☆」などと明るく言い放ったので無視する。義父はというと、小沢さんに作成していただいた調査報告書をめくりながら、「探偵さんも大変だよねぇ。ずっと立って写真撮ってるんでしょ? 疲れちゃうよねぇ」と、他人事のようにつぶやきながら、配偶者が不倫相手の乳房を触っている写真をまじまじと眺めていた。義父から調査報告書を奪い取り、ページをめくりながら私は声を荒げた。
私「これ、父の遺骨を乗せた車だよね? その中でキスしてたんでしょ? この日、どれだけ私が泣いたかわかる?」
夫「……黙って」
私「私だって黙りたいよ。でも、私がどれだけ辛かったかあなたにはわからないから、家を出て行く気にならないんだよね? 本当にお願いだから家を出てって!!」
夫「おい! それ以上喋ったらキレるぞ!!」
義母「きゃっ! びっくりした!」
母「キレたら警察呼ぶから」
感情が抑えられない私と配偶者、冷静に話を戻そうとする母、また空気を読めない発言をする義母……そんなカオスと化す場を収めたのは、まるで会社の打ち合わせのような口調の義父だった。
父「何せよ、僕らは弁護士でも不動産屋でもないんだから、何も解決できません。とりあえず、お前(配偶者)は正月明けには出て行きなさい。もう、それしかかいでしょ。これ以上、私たちを巻き込まないでください」
正論だった。とっくに成人している夫婦の問題に親が首を突っ込むことでもないのは重々承知している。それでも、どこか淡い期待を抱いていたのは事実だった。
母「じゃあ正月上旬。慰謝料のことは置いておいて、別居だけは必ず守ってください。守られなければ、また集まっていただきますから」
納得のいかない様子の配偶者と、一刻も早く帰りたいような義両親は、ろくに挨拶もせず実家をあとにした。振り返れば、このとき誰ひとりとして謝罪の言葉を口にしなかったのだから驚く。
謝罪されたからといって何かが変わるわけじゃないけど。ただただモヤモヤが残ったまま、地獄のような家族会議の幕は閉じた。