出典: 事件はラブホで起きている
対象者の育児放棄や親権のことも考え、調査は続行することになった。
対象者は、2回目の調査では高級外車を乗り回す日本人男性、3回目の調査ではチャラそうでイケイケな日本人男性、4回目の調査ではちょっと地味な若めの日本人男性――と密会していた。
それぞれの男性に共通点は見られず、やはりマッチングアプリで男を漁っているようだった。そして5回目の調査では、筋肉キムキマッキョの20代の日本人男性との待ち合わせだった。依頼者さんに報告の電話をする。
「〇〇さん、奥さんの今日の相手は、筋肉キムキマッキョです」
「オールジャンル……」
依頼者さんの表現はやや誇張が入っているとは思うが、もはや奥様の好みの広がりはとどまることを知らない。
居酒屋から出てきたふたりが立ち話をしている。対象者はもちろん今日も勝負スタイルで、ムキムキマッキョに積極的にボディタッチをしかけている。マッキョのほうは、表情を見るかぎりあまり乗り気ではなく、このまま解散したいような空気が見て取れる。駅の方を指さすマッキョ、だけど対象者は首を横に振り、マッキョの胸に両手を這わす……マッキョも困ったような、嬉しいような顔をしている。
この日の僕らは4人体制で調査をしていたが、全員でこのふたりの駆け引きを見守りながら、「押せっ…! 押せっ…! 押せっ…!」
と対象者を応援していた。不謹慎ではあるが調査をしている以上、不貞行為が成立してくれたほうが、依頼者さんのためにはいい。だけど、無情にもこの駆け引きはマッキョが制した。マッキョになだめられ対象者は、ちょっと拗ねたような表情で頷き、ふたりは駅の方へと歩き出した。改札付近まで来て解散の気配が漂う。
「くそ……! 今日は不貞ならずか……」
僕ら4人がそう思った瞬間――対象者が突如としてマッキョに抱き着いた。身体をピタッと密着させて、背中に回した手をワサワサさせている。真夏の時期だったので、効果はテキメンだったようでマッキョはついに観念し、改札からUターンして再び繁華街へ戻っていった。そして、対象者はマッキョの腕を引っ張り、ラブホへと引きずり込んだ。
「ゴォーーール!!」
この大逆転ゴールは非常に盛り上がった。ラブホの前でガッツポーズする4人は、完全に不審者だったと思う。
かなり遅い時間になってラブホから出てきた(賢者モードの)ふたりは、今度こそ駅で解散し、マッキョは終電で地方のローカル駅で下車した。文字どおりの片道切符だったが、無事にマッキョの自宅も割り出すことに成功。のちの調査で判明したけど、賢者のマッキョは公務員だった。
今後も調査を続ければまだまだ男は出てくるだろうが、もうキリがないということで、〝人妻無双〟の調査はここで終了となった。
世間の人たちが〝不倫〟と聞いてイメージするのは、「遊び人の旦那が貞淑の妻を泣かせて」悲しませている図だろうけど、現実は違う。むしろ、奥さんの不倫のほうがタチが悪かったりする。